- 白内障手術について
- 眼内レンズの種類
- 白内障手術の手順
- 目の手術は怖いと感じられる方へ
- 白内障手術当日の流れ
- 白内障手術の準備・確認事項
- 白内障手術を受けた患者さんに守っていただきたいこと
- 白内障手術の合併症
- 白内障手術の費用の目安
白内障手術について
白内障とは、主に加齢などが原因で目の水晶体に濁りが生じ、視界がぼやけるなどの症状を引き起こす病気です。
一般的に白内障は手術治療によって改善させることが可能です。症状の程度にもよりますが、視機能障害により日常生活に不便を認める場合には濁った水晶体を除去して代わりに人工の眼内レンズを移植する手術を行います。近年では医療技術や医療機器の進歩により、短時間で安全に手術を行うことが可能となっています。
当院は白内障と緑内障の同時手術が可能
近年では医療技術や医療機器の進歩により、比較的短時間で患者さんの負担が少ない白内障手術や緑内障手術が可能となっております。しかし、それでも目の手術を2回行うことは大変であり、患者さんのストレスも大きくなるため、当院では手術の良い適応の患者さんに対しては、白内障手術と緑内障手術の同時手術を推奨しています。
白内障の主な原因は水晶体の濁りで、緑内障の主な原因は眼圧の上昇です。これらはともに40歳を過ぎると発症リスクが高まるため、両者を同時に併発しているケースも多く見られます。
当院でも白内障と緑内障の同時手術を実施しています。ぜひご相談ください。
眼内レンズの種類
単焦点眼内レンズ
単焦点眼内レンズとは、近方・中間・遠方のいずれかに焦点が合うように調整されている眼内レンズです。単焦点眼内レンズの処方は保険適用なため自己負担は少なくて済みますが、近方に焦点が合うものを挿入した場合には遠方が見えづらくなり、逆に遠方に焦点が合うものを挿入した場合には近方が見えづらくなります。そのため、見えづらい場合には、眼鏡や老眼鏡を使用する必要があります。
多焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズとは、近方・中間・遠方のどの範囲にも適応した眼内レンズです。
あらゆる距離でピントを合わせられるため便利ですが、全体を網羅していますが、一部の距離に対しては見えづらい場合があります。その際には眼鏡や老眼鏡の使用が必要になる場合もあります。
また、多焦点眼内レンズには様々な種類があり、それぞれ合うピント距離が異なり、利点や欠点も異なるため、患者さんの生活習慣などを考慮しながら最適なレンズを医師と相談して選択する必要があります。なお、多焦点眼内レンズの多くはメガネなしで遠くから近くまで見えるようになる半面、夜間に光の周りに輪っかが見える(ハロー)、光がにじんで見える(グレア)、光が放射状に広がって見える(スターバースト)といった特徴があります。細かい性格の患者さんは術後にハローやグレアが非常に気になり、ストレスに感じてしまうこともありますので注意が必要です。
一方、近くはやや見づらくなりますが、ハローやグレアを抑えたレンズもあります。また、糖尿病網膜症や緑内障、加齢黄斑変性などの目の病気をお持ちの患者さんは多焦点レンズをお勧めできない場合が多いため注意が必要です。
トーリック眼内レンズ
トーリック眼内レンズとは乱視の強い患者さんの白内障治療の際に使用する眼内レンズです。乱視を軽減することが可能で、単焦点レンズと多焦点レンズのどちらも選択できます。ただし、トーリック眼内レンズは主に乱視の矯正に特化したものであるため、患者さんの目の状態や症状によっては適さない場合もあります。また、術後早期に運動や打撲の影響で眼内レンズが大きく動いてしまうとレンズの位置を補正する処置・手術が必要になる場合も稀にあります。
乱視
乱視は、色々な原因によって角膜や水晶体が歪むことで光の屈折率が変化し、ものが二重に見える、ぼやけて見えるなどの症状の原因になります。なお、乱視の程度やものの見え方には個人差があります。
国内で多く使われている多焦点眼内レンズの種類
選定療養対象
テクニスシンフォニー オプティブルー Tecnis Symfony
テクニスシンフォニー オプティブルーとは米国AMO社製の多焦点眼内レンズです。焦点深度拡張型(EDOF)と呼ばれるタイプのレンズで、従来のものより広範囲にピントを合わせることが可能です。また、ハローやグレアも比較的少ないレンズです。
特に中間距離〜遠距離が得意なレンズのためパソコン作業などが多い患者さんには適している一方で、読書などで近距離の対象物を見る場合は老眼鏡が必要になるかもしれません。
テクニスシナジー Tecnis Synagy
テクニスシナジーとは米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のハイブリッド型多焦点眼内レンズで、日本には2021年4月に導入された最新型の眼内レンズです。
焦点深度拡張型と2焦点型の2種類のレンズを融合し、近方から遠方までの幅広い距離を網羅します。特に他の多焦点眼内レンズよりも近く(約30cm)まで見る事を得意としています。一方、夜間のハロー、グレア、スターバーストがやや多いという特徴があります。
テクニスオデッセイ Tecnis Odyssey
テクニスオデッセイは米国ジョンソン・エンド・ジョンソン社製の新しい眼内レンズで日本国内では2024年11月から使用が開始されています。
同社のテクニスシナジーの後継に位置するレンズであり、テクニスシナジーの夜間のハローやグレア、スターバーストを軽減しおり昼夜問わずはっきりと見えるレンズです。一方、テクニスシナジーよりも近くの商店距離は遠く、約40cmと報告されています。
パンオプティクス Pan Optics
パンオプティクスとは米国アルコン社製の3焦点型多焦点眼内レンズです。近方から遠方までの幅広い距離を網羅する上、特に近距離のものを見たり薄暗い場所でものを見る際に効果を発揮します。非球面設計のために視界のぼやけを抑えられる他、夜間のハローやグレア少ないタイプのレンズです。
クラレオンビビティ Clareon Vivity
クラレオンビビティは2023年6月に米国アルコン社から発売された、波面制御型焦点深度拡張レンズです。遠方から中間までを得意としており、近方は細かい字を読む時や細かい作業が必要な時は老眼鏡が必要な場合があります。一方、ハローやグレアは殆ど生じず、短焦点レンズに近い夜間の見え方が可能なのが特徴です。またコントラスト感度も単焦点眼内レンズと同等であり、昼夜問わずはっきりと見えるレンズです。
ファインビジョン Fine Vison
ファインビジョンとはベルギーPhysiOL社製の多焦点眼内レンズです。アポダイズド回折型設計によって近方・中間・遠方の3焦点に対応する能力があるため、読書やパソコン作業、自動車運転など幅広い用途で効果を発揮します。また、ハローやグレアは比較的少なく、ブルーライトにも対応しており、人気の眼内レンズです。
自費診療
インテンシティ Intensity
インテンシティとはイスラエルHanita Lenses社製の多焦点眼内レンズです。40cmから遠方までの5つの焦点を有し、あらゆる距離の視界に対応することが可能です。また、ハローやグレアもかなり少ないレンズです。健康保険が適応されないため、手術費用も眼内レンズ費用も高額となってしまうのが欠点となります。
白内障手術の手順
以下は、超音波を使って水晶体を除去する白内障手術の手順となります。多くの白内障の治療で行われている手術法ですが、合併症の有無や眼の状態によっては違う方法を選択しなければいけない場合あります。また、手術中は器械で目を開けて手術を行いますが、安全に手術を行うために、リラックスして頂き両目を開けて正面を見ているような状態でじっとしてて頂きます。瞬目(まばたき)は普段通りにして頂いて構いません。
1麻酔をかける
まずは点眼麻酔やテノン嚢下麻酔などの局所麻酔を行います。これにより、手術中はほとんど痛みを感じることはありません。
2切開創をあける
黒目(角膜)や白目(強膜)に2~3か所の切開創を作製します。いちばん大きい傷口でも約2.4mmの切開創です。
3眼内レンズを入れる穴を作る
水晶体を包む水晶体嚢の前面に、水晶体を取り出したり眼内レンズを挿入するための丸い穴を空けます。非常に精密な作業となるため、経験豊富な白内障手術の専門医が顕微鏡を使用しながら行います。
4濁った水晶体を取り除く
水晶体嚢の穴に器具を挿入し、超音波を利用して水晶体を粉砕・吸引して除去します。
5眼内レンズを入れる
水晶体の除去が終了したら、代わりに水晶体嚢の中に眼内レンズを挿入して固定します。
目の手術は怖いと感じられる方へ
当院では、白内障の手術の際に低濃度笑気ガス麻酔を使用する場合があります。この麻酔により患者さんはリラックスした状態で手術を終えることができるため、不安や恐怖を感じることなく手術が可能になります。
なお、低濃度笑気ガス麻酔は子どもの歯科治療や無痛分娩の際にも採用されている安全性の高い麻酔です。
笑気ガス麻酔の特徴
① リラックス効果
低濃度笑気ガス麻酔には軽い鎮静・鎮痛作用があるため、患者さんの心身の状態を安定させる効果が期待できます。
② 術後も身体に残らない
低濃度笑気ガスは短時間で自然に排出されるため、手術の数分後には意識もはっきり戻ります。
③ 副作用の心配が少ない
稀に低濃度笑気ガスを使用することで吐き気や手足の脱力感が生じることがありますが、副作用はほとんど現れません。
適応のある方
- 目の手術に対して強い不安感や恐怖心がある
- 緊張やまぶしさを感じると目を強く閉じてしまう癖がある
- 痛みに対して非常に敏感である
- 閉所恐怖症を伴っている
低濃度笑気ガス麻酔の使用をご希望の際には、事前に担当医までご相談下さい。
白内障手術当日の流れ
1ご来院
検査時間前までに受付を済ませてください。また、現在入れ歯や差し歯を使用している場合には手術中に飲み込んでしまう恐れがあるため、あらかじめ外していただく必要があります。その他、現在補聴器を使用している場合には消毒液等に濡れて壊れてしまう恐れがあるため、あらかじめ外していただき耳の聞こえ具合を確認します。
2散瞳処置
散瞳処置として、手術前に点眼薬を何度か点眼して瞳を大きく広げます。
3前室へ移動
手術前室へ移動し、手術用の帽子やエプロンを着用していただきます。また、あらかじめトイレを済ませていただきます。手術中のトイレが心配な場合は介護用紙パンツを履いてきていただくと安心です。
4手術開始
手術室に入り、患者さんの氏名や病名、手術内容などを確認します。その後に消毒、洗眼をして清潔な布を術野に被せてから手術を開始します。
手術中に何かありましたら、声をだして教えてください。急に動いたり、手を顔の方に持ってくることは絶対に控えて下さい。
白内障手術の準備・確認事項
手術前日に注意すること
髪を洗っておく
術後は一定期間、洗髪が行えませんので、事前に済ませておいてください。
来院および帰宅の手段を確認しておく
手術後の自動車や自転車の運転は危険を伴うため、ご帰宅時には公共交通機関やタクシーをご利用いただくか、ご家族等に送迎を依頼してください。
マニキュアやネイルアートをしている場合は落としておく
マニキュアやネイルアートをしていると手術中に血液中の酸素量の測定ができず、安全に手術が行えないため、マニキュアやネイルアートは事前に落としておいてください。
当日の朝注意すること
男性は頬ひげをそり、女性は化粧を控える
手術後しばらくは洗顔や髭剃りが行えないため、あらかじめ男性はひげを剃り、女性は化粧を落とした状態でお越しください。
前開きの服を選び、高価な服装は避ける
手術後は眼帯を装着した状態で着替えを行うため、手術当日の服装は前開きのものを選ぶようにしましょう。また、消毒液などが衣服に付着して汚れる恐れがあるため、高価な服の着用は控えましょう。
白内障手術を受けた患者さんに守っていただきたいこと
手術した眼は安静、清潔にする
手術後しばらくは目を安静に保つ必要があるため、擦ったり叩かないようにしましょう。また、お水が目に入ると感染症のリスクが高くなるため、手術後しばらくは洗顔・洗髪は行えませんのであらかじめご留意ください。その他、処方された目薬は医師の指示通りにきちんと使用するようにしましょう。
急激な視力低下に注意する
手術後に急激な視力低下が起きた場合には眼内炎を起こしている可能性があります。その際には早急に当院までご相談ください。
手術後1週間は洗顔・洗髪を控える
手術後は目に細菌やウイルスが感染するのを防ぐため、1週間は洗顔・洗髪を控えていただきます。顔を洗いたい場合には、固く絞ったタオルで目の周りを避けて顔を拭くようにしましょう。
手術後1週間は飲酒・喫煙を控える
飲酒や喫煙は目に悪影響を及ぼすため、手術後1週間は控えていただくことをお勧めします。なお、食事に関しては特に制限はありません。
白内障手術の合併症
後発白内障
後発白内障とは眼内レンズが入っている袋(水晶体嚢)の後ろ側が濁る合併症で、数ヵ月~数年経過した際に一定数の患者さんで発症します。主な症状は視力の低下、視界がかすむ、まぶしく感じるなどで、治療はYAGレーザーによって水晶体嚢の濁りを取り除く処置を行います。数分で痛みもない治療で視力の改善が期待できます。
術後眼内炎
術後眼内炎とは、白内障の手術後に目に細菌が感染・増殖し、急激な視力低下や目の痛み、充血などの症状を引き起こす合併症です。発症率は2,000~3,000件に1件と非常に稀ですが、発症すると重篤な後遺症を引き起こし失明する恐れもあり、注意が必要です。眼内炎を予防するためには、術後の適切な点眼と適切な清潔管理が非常に大切です。
角膜内皮減少
角膜内皮減少とは、角膜の最も内側にある角膜内皮細胞が減少する白内障の合併症です。主な原因は、白内障手術で超音波を照射した際の衝撃や水晶体の核片が角膜内皮細胞に接触することなどが挙げられます。白内障が重症な患者さん程、角膜内皮細胞の減少するリスクが高くなります。
黄斑浮腫
黄斑浮腫とは、網膜の中心部に位置する黄斑がむくむ病気です。主な原因は白内障手術後の炎症や飲酒、糖尿病網膜症の合併症などが挙げられます。
主な症状は、視界がぼやける、視界が歪んで見えるなどになります。特に白内障手術の後は目が不安定な状態のため、点眼や飲酒などについて医師の指示を適切に守るようにしましょう。術後に処方している非ステロイド薬の点眼が治療に有効とされています。
眼内レンズ偏位(脱臼)
眼内レンズ偏位(脱凹)とは、白内障手術後に眼内レンズの位置がずれたり外れてしまう状態を指します。位置がずれることを偏位、外れてしまうことを脱凹と言います。
眼内レンズが偏位・脱臼を起こすと、眼内レンズが正しい位置に無いため、急激な視力の低下などの症状が現れます。硝子体手術や眼内レンズ強膜内固定術などの比較的大きな手術が必要になります。
白内障手術の費用の目安
白内障の手術は保険適用となります。以下は保険適用された際の自己負担額の目安となりますが、患者さんの症状の状態や使用する薬剤、レンズの種類などによって前後します。
保険診療
1割負担の方 | 3割負担の方 | |
白内障手術(片目) | 15,000~20,000円 | 50,000~60,000円 |
---|
手術給付金について
生命保険・医療保険に加入されている場合には、白内障手術の際に手術給付金を受け取れる可能性があります。事前に保険会社にお問い合わせください。
高額療養費制度
高額療養費制度とは、1ヵ月の医療費(他科の治療費も含む)の自己負担金額が一定の上限を超えた際に超過分の支給を受けることができる制度です。両目とも白内障手術を検討している場合には、月を跨いで片目ずつ手術するよりも同月に両目とも手術をした方が高額療養費制度によって手術費用を抑えることが可能となります。
なお、1ヵ月の上限額は患者さんの年齢や前年度の収入などによって決定されるため、事前にご加入の保険会社にお問い合わせください。