目の現代病
近年では仕事や学校、私生活などでスマートフォンやパソコンを使用する機会が急増し、目を酷使することで様々な目の症状を訴える患者さんが増加傾向にあります。これらの電子端末を至近距離で長時間見続けると、一時的に目のピント調節機能が乱れて視界がかすむなどの症状を引き起こします。また、このような生活習慣を長期間継続すると、目が乾きやすい、まぶたがピクピク痙攣するなどの症状が現れるようになります。
こうした社会や生活習慣の変化によって近年増加傾向にある目の病気としては、眼精疲労やVDT症候群(IT眼症)、ドライアイなどが挙げられます。
ものを見る仕組み
人がものを見るメカニズムはカメラとよく似ています。カメラで例えると、角膜と水晶体はレンズの役割を担い、その間に位置する虹彩は光の量を調整する絞りの役割を担います。また、水晶体に接続する毛様体筋はピント調節機能を果たし、網膜は光を象に変換するフィルムの役割を担います。網膜に映し出された像は、電気信号に変換されて視神経を通じて脳へと伝達され、我々は見た映像を認識できるようになります。
その他では、涙には目の表面の乾燥を防ぐ他、角膜に酸素や栄養を供給する役割があります。
眼精疲労
眼精疲労とは、パソコンやスマートフォンなどを長時間視聴することにより、目だけでなく全身に様々な症状を引き起こす疾患です。
主な原因は、目のピントを頻繁に切り替えることで毛様体筋が疲労し、毛様体筋をコントロールしている自律神経のバランスが乱れるためと考えられています。
眼精疲労の症状
目の症状
- 目がかすむ
- 目がぼやける
- 目が乾く
- 目がしょぼしょぼする
- 目が充血する
- 目が重い
- 目の奥に痛みが生じる
- 視点を変えた時にピントが合いづらい
- 光を眩しく感じる
全身の症状
- 頭痛が生じる
- 全身に倦怠感がある
- 首・肩が凝る
- めまい・ふらつきを起こす
- 吐き気をもよおす
眼精疲労の原因
眼精疲労の主な原因は目の酷使です。特に近年ではパソコンやスマートフォンを長時間利用する割合が増え、これら電子端末を至近距離で視聴し続けることで目のピント機能が乱れ、眼精疲労へと繋がるケースが多く見られます。
その他では、本を至近距離で読んだり度数の合っていない眼鏡・コンタクトレンズを長期間使用することなども眼精疲労を引き起こします。また、ドライアイも眼精疲労を悪化あせる原因であると報告されています。
眼精疲労の治療
点眼治療&温あんぽう
眼精疲労は、目のピント調節機能を担っている毛様体筋が疲労することで引き起こされるため、毛様体筋を休めてあげることが予防や治療には大切です。眼科では、毛様体筋の蓄積疲労を予防する点眼薬や、毛様体筋をリラックスさせる効果のある点眼薬などを処方します。また、ご自身で行えるセルフケアとしては、ホットタオルやホットアイマスクなどを目に当てて適度に目を温めることも、改善には効果的です。
生活習慣指導
眼精疲労はパソコンやスマートフォンの長時間視聴など生活習慣の乱れによって引き起こされます。そのため、生活習慣そのものを改善指導させることも眼精疲労の予防に繋がります。
具体的には、仕事等でパソコンを長時間使用する場合には、30分毎に休憩を入れたり軽いストレッチを行うようにしましょう。また、電車で移動中にはスマートフォンの視聴を控えて目を休めることも大切です。
正しい度数の眼鏡・コンタクトを作る
目は加齢とともに視力が変化します、また、一般的に40歳を超えると老眼の症状が現れ始めます。そのため、眼鏡やコンタクトレンズを長期間使用し続けると、本人も気付かないうちに度数が合わなくなって目に負担を与える恐れがあります。
長い間同じ眼鏡やコンタクトレンズを使用している場合には、一度眼科を受診して視力検査を受けるようにしましょう。検査の結果、度数に乖離が見られた場合には、眼鏡やコンタクトレンズを新規作成するようにしましょう。
ドライアイ
ドライアイとは、涙の量が減少したり涙の質が変化することで、目が慢性的に乾燥する疾患です。涙には目の表面の乾燥を防ぐ他、目に酸素や栄養を供給する役割があります。そのため、涙の量や質が変化すると、目に潤いが行き渡らなくなって様々な症状を引き起こすようになります。
主な原因は、加齢やパソコン・スマートフォンの長時間使用、エアコン・コンタクトレンズの長時間使用などが挙げられます。
ドライアイの原因
ドライアイは、涙の量の減少や涙の成分の変化、結膜弛緩などによって引き起こされます。ドライアイになると目が慢性的に乾燥状態に陥り、小さな異物が混入しただけでも角膜が損傷を起こしたり、目に疲労感が生じるようになります。
ドライアイを引き起こす主な原因は、パソコンやスマートフォンの長時間使用やコンタクトレンズの長期間使用、喫煙、エアコンなどが挙げられます。その他では、加齢によってマイボーム腺の機能が低下すると、涙の分泌が阻害されてドライアイを引き起こすこともあります。
ドライアイの治療
薬物療法(点眼)
薬物療法では、主に不足した涙を補うための点眼薬や、角膜の傷を修復するための点眼薬を使用します。涙の補充としては、生理食塩水を主成分とした人工涙液や涙液やムチンの分泌を促進するジクアスなどが適用されます。また、角膜の損傷の改善にはヒアルロン酸製剤やムコスタ、血清点眼などが適用されます。
その他、マイボーム腺機能を改善させる場合には、アジマイシンの点眼やIPLによるレーザー治療などを行うこともあります。
涙点プラグ
涙点とは、目の表面の過剰な涙を排出させる器官で、目の鼻側(目頭)の上下にあります。涙点プラグとは、この涙点をシリコン製のプラグで塞ぐことで、涙の排出を阻害して目の潤いを維持することができる治療法です。
温あんぽう
マイボーム腺とは涙に油分を供給する器官で、まぶたの裏側にあります。加齢などが原因でこのマイボーム腺に脂が蓄積すると、適切に目に油分を供給できなくなります。
マイボーム腺の脂は、温めることよって溶かすことが可能です。そのため、ホットアイマスクなどで目を温めることで、ドライアイの症状を改善させることができます。
キープティア
キープティアとは、液体状のコラーゲンを涙点に注入することで涙点を塞ぎ、涙の排出を阻害させる治療法です。添加された液体コラーゲンは体温によって個体に変化し、涙点を塞ぎます。涙点プラグと比べて治療後の違和感は少ないですが、コラーゲンが流出してしまうと効果が消失するため、再度注入が必要になります。
IPL治療(自費)
IPLとは、マイボーム腺に特殊なレーザーを照射して涙の油分の分泌を促進する治療法です。比較的近年開発された新しいドライアイ治療法で、患者さんの負担も少なく高い効果を発揮します。また、ドライアイだけでなく皮膚のハリの改善やリフトアップなどの美容形成の分野でも使用されます。
ただし、IPLは保険適用外の治療となるため、治療費は全額自己負担となります。
VDT症候群(IT眼症)
VDT症候群とは、パソコンやスマートフォンの長時間使用などが原因で様々な目や体の症状を引き起こす疾患の総称です。IT眼症やテクノストレス眼症とも呼ばれます。
主な症状は、目の渇きや疲労、ピントが合わない、頭痛、肩こり、不眠、胃腸の不調などが挙げられます。なお、これらの症状を訴える患者さんの多くは身体的に異常が見つからないことから、不定愁訴と言われます。
VDT症候群(IT眼症)の症状
日常的にパソコンを使用する生活習慣を持ち、以下のような症状が現れた場合にはVDT症候群の疑いがあります。
目の症状
- 慢性的に目が乾く
- 目がかすむ
- 目が疲れる
- 目がしょぼしょぼする
- 目が充血している
- 目の痛い
- 視力が低下している
- 視界がぼやける
など
全身の症状
- 首や肩が凝る
- 頭痛を伴う
- めまいを起こすことがある
- 肩・腕・背中が痛い
- テキス手の指が痺れるト
- 足腰がだるい
など
精神・神経の症状
- 食欲が減退している
- よく眠れない
- 不安感に襲われる
- イライラする
- 抑うつ状態になる
など
VDT症候群(IT眼症)の原因
パソコンやスマートフォンを長時間使用すると、目のピント調節機能が低下して視力低下や視界がぼやけるなどの症状を引き起こします。また、目に過度な負担がかかることから慢性的に目が乾燥し、眼精疲労を引き起こすこともあります。その他、目が乾燥することで目に混入した異物を排除できなくなり、角膜が傷付きやすくなります。
このように、電子機器の過剰使用によって引き起こされる様々な目の不調を総称して、VDT症候群と言います。
VDT症候群(IT眼症)の治療
VDT症候群の主な治療は点眼薬による薬物療法となります。点眼薬には様々な種類があり、症状に応じて目の乾燥を防止するもの、目の疲労を取り除くものなどが選択されます。また、首・肩が過度に緊張して凝っている場合には、筋肉の緊張を緩和させる効果のある内服薬を使用することもあります。
その他では、パソコン作業専用の眼鏡やコンタクトレンズを使用することも、VDT症候群の予防には効果的です。
眼精疲労と疲れ目の違い
一般的な疲れ目と眼精疲労の主な違いは、症状が目だけに現れているか全身に現れているかになります。
疲れ目とは、一時的に目を酷使することで目の筋肉や神経が疲労した状態です。そのため、適度に休息を取って目を休ませれば、比較的短時間で症状は改善します。
一方で、眼精疲労の場合は長時間のパソコン作業などの生活習慣を長期間継続することにより、目の疲労やかすみ、痛み、充血、光を眩しく感じるなどの目の症状に加え、頭痛や吐き気、めまい、肩こり、倦怠感などの全身症状が現れます。また、眼精疲労の場合は十分な休息や睡眠を取ってもすぐに症状が改善しないケースが多く見られます。
眼精疲労やドライアイによる頭痛
眼精疲労やドライアイになると、頭痛(緊張型頭痛)を引き起こすことがあります。これは、目に異常が生じているにも関わらず、ものを見る際に目が無理にピントを調節しようとすることで、目の筋肉だけでなく頭部や頚部にも過度な負担がかかっているためと考えられています。
なお、頭痛の原因が眼精疲労やドライアイの場合には、頭痛薬などを内服しても症状が改善しないことが多く、原因疾患である眼精疲労やドライアイそのものを治療する必要があります。
スマホの長時間視聴で起こる目の異常にも注意
スマホ内斜視
スマホ内斜視とは長時間スマートフォンを視聴する習慣を継続することで目が内側に寄ってしまう疾患のことで、正式には急性内斜視と言います。近年、スマートフォンやタブレット端末の普及により、スマホ内斜視を発症する患者さんが増加傾向にあります。
多くの場合はスマートフォンやタブレット端末の長時間使用を控えれば症状は自然と改善しますが、症状が重度の場合には手術治療が検討されることもあります。
従って、スマートフォンやタブレット端末を使用する際には、画面から30㎝以上距離を取る習慣を身につけることが大切です。また、長時間の使用は避け、10分に1回は遠方を眺めるなどして適度に目を休めるよう心がけましょう。
スマホ老眼
老眼とは、加齢が原因で水晶体の弾力性が損なわれることで、近距離の対象物を見るときにピントが合いづらくなる症状です。早い人で40歳を過ぎた頃から発症します。
一方で、近年増加傾向にあるのがスマホ老眼です。これは、スマートフォンやタブレット端末を至近距離で視聴し続けることで、目のピント調節機能を担う毛様体筋が緊張してピントが合いづらくなる疾患です。スマホ老眼になると、視聴を終えた後に遠方を眺めた際、視界がぼやける・かすむなどの症状を引き起こします。多くの場合は直ちにスマートフォンやタブレット端末の至近距離での視聴を止めれば自然と改善しますが、症状が重度の場合には毛様体筋が麻痺して近距離のピントも合わなくなるため、注意が必要です。
まぶたのピクピク(眼瞼ミオキミア)
眼瞼ミオキミアとは目のまわりが無意識的にピクピクする状態の事です。
原因はストレスや睡眠不足、眼精疲労、カフェインと言われています。
長いと1ヶ月以上にわたり自覚症状が続く場合がありますが、基本的にはしっかりと睡眠時間を確保したり、目が疲れないように気を付けるだけで自然に収まります。
また、眼瞼けいれんという病気と間違われることが多いのですが、全く別の疾患です。(眼瞼けいれんは瞬目(まばたき)がうまく出来なくなったり、目を開けようとしても目が開けられなくなってしまう病気です。)